0701 音楽をどう聴くか



  健聴者に実感として難聴の不便さを理解させることは不可能である。別の欄で私はそう書きました。私の片耳は人工内耳をつける資格がある筈ですが片耳は何とか補聴器が使えています。使えている内は人工内耳で音がどんな具合に聞こえているかは「実感としては」知りようがありません。立場が逆になっただけです。しかし、「馴れるまで訓練が必要」なことと「音階が正確に再現されない」ということである程度の理解ができます。と言うのは私がメニエール氏症候群のために音階が完全に狂って聞こえていた時期を随分永く経験しているからです。

 とにもかくにも耳鳴りなんてものではない頭全体がガーンと鳴っている。「エンジンの音轟々と」と例えたのは遙か後、かなり軽くなってからの話で、とにかく一日中頭ガーンです。仕事を休んで自宅に籠もりきり、2階に布団を敷いてじっと耳鳴りならぬ頭なりに耐えているしかなかったのです。
  その頭鳴りの陰からなにやらピャオピャオと変な音が聞こえてくる。なんの音かと神経を集中すると、どうやら幼い私の子供二人が近所の子供と遊んでいる声らしいのですね。我が子の声らしい…と感じるまで随分時間がかかっています。

その内ラジオの音が聞こえてきました。音楽です。オーケストラらしい。とにかく変な音で何の曲かなんてことは全然判らない。でも、他にすることがないのでムキになって聴き取ろうこうとする。メロディーはわからないけれどリズムは判ります。タラララッタッタとリズムを刻んでいる内になんだか聞き覚えのある曲だなーと思われてきました。と思われる内に「あの曲のあの部分に違いない」という確信が持ててきました。持ててくると不思議なものでメロディーがそれらしく聞こえてきます。そうするとあれだけ狂っていた音階が頭の中で組み立て直されてくるんでしょうか。らしく聞こえていたのが曲そのものになる。なんとも不思議な経験でした。どういうわけでああなるんでしょうね。今もって判りません。

 ただ、人工内耳の電極をつけてから「音入れ」という手続きなり訓練があると聞きました。始めは意味も何も判らずにいたのが時間と共にそれらしく聞こえ、やがて聞き取れるようになるという過程が、どこかしら私の体験と似たところがあるのですね。音階が完璧に狂って聞こえるのは内耳か神経かどちらのせいなのでしょう。そして極度に神経を集中すると聞こえの狂いが一時的にせよ矯正されるというのは脳の記憶がそれを修正しているとでも言えるのでしょうか。
 
 こうして記憶を辿ってみて、あの直後に子供達のピャオピャオ音がどう聞こえていたか、なんてことは全く覚えていません。そこまでは到底気が回らなかったのでしょう。それどころか、こんなことをやっていると気が狂ってしまうと本気に怖くなったことは鮮明に覚えています。だから、こんな経験は後にも先にもこのとき一回きりです。 

 人工内耳をお使いの方でここをお読みになって御自分の経験との類似点とか相違点などを教えて頂ければ有難いことです。
                                      

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