0208 補聴器で聞こえない音が望遠ソラで聞こえるのは何故?




 高価な補聴器を買って上げても使おうとしないお年寄りが[赤トンボ]こと[望遠ソラ]なら落ち着いて聞いている、と良く言われます。
 難聴が酷くなると声がでかくなり、発音がたどたどしくなるのは皆さん御承知の通りですが[望遠ソラ]とつきあっている内に自然に声も静かになり発音が正しくなってくる。「何故だろう?」とも聞かれます。

「何故?」と聞かれても耳鼻科医でもなく音響学の専門家でもない私には答えが難しいのですが、このホームページには専門家の助けは借りない、我々なりの責任で処理をすると書いた以上は答えを捻り出さなくてはなりません。これは飽くまでも私個人の解釈であるとお断りした上で筆を進めることにしましょう。
                         
 耳の聞こえを表す「オージオグラム」というグラフは難聴の方ならお馴染みの筈です。縦軸に0dB(デシベル)から120dBまでの目盛りがあります。横軸は125Hz(ヘルツ)から8000Hzまで刻んであります。
 正常な聞こえの人が0dBですが、身障者手帳を貰うようになると70dBから下の領域ばかり忙しくなって上の方はガランと空いています。この大きな空間に勾玉のような雲のような形をしたものが浮かんでいます。縦軸は20dBから50dBまで、横軸は250Hzから4000HZまで。この雲を[会話域]と呼んでいます。つまり、この範囲の音が聞こえれば「何を話しているかは判る」ことになっています。

 我々難聴者の聞こえのグラフは、この「会話域」よりも遙か下の方を這い回っています。それをなんとか[会話域]の範囲まで引き上げようとするのが補聴器の役目です。

 この[会話域]は大勢の専門家によって永い時間をかけて作られたものでしょうから理屈から言えばこれで良いのでしょう。しかし、この範囲で作られた補聴器と38年もつきあってきた私としては納得できないところがあるのです。

 確かにこの範囲が聞こえれば相手が言わんとするところは判ります。アルフレッド・トマテイス先生の本にある[民族のパスパンド]によれば、日本語は125Hzから1500Hzまであれば良いとされていますから補聴器の設計はもっと楽になる筈です。しかし、意味が判れば良いと言うより我々には相手の声の聞き分けができないのが辛いのです。
 耳が良いときは電話で「モシモシ」と言われただけで相手が誰であるかが判ったものでした。補聴器経由ではそれができないのです。テレホンコイルに切り替えて少しはましな条件にしてみてもこの点に関しては同じことです。
 電話で辛いのは「モシモシ」問題以前に「誰ソレです」と名乗られても直ぐには相手の名前として聞き取れないことが多いことです。何度か聞き返している内に突然「アッ」と判る。判った瞬間に彼の声として聞こえてくるのが不思議です。脳の記憶装置が助けてくれるのでしょう。

 今私はある[聞こえの援助機器]の開発のためにある会社に単身赴任していますが、それ以前は電話は必ず家内に受けて貰っていました。「誰それさんからの電話」と言われて心の準備ができる。相手が誰であるか確認するまで脂汗を流すのとは大違
いです。
 これは集まりなどで某氏から突然話しかけられても脳がキャッチできない。「佐藤さん」と呼びかけられて向こうと向き合って「伺いましょう」という姿勢ができて始めて内容を持った話として聞こえてくるのと同じです。

 さて、相手が誰であるか聞き分けるためには今のオージオグラムの[会話域]の範囲内では無理である、というのが私の見解です。中音域+更なる低音域+更なる高音域があって始めて相手の認識ができるのではないか…と。
 始めて補聴器を使ったときの何とも言えぬ違和感はそこが中音だけの世界だからでしょう。お年寄りが「こんな筈はない。こんなことがあるか」と絶望するのは自分の声が異様に聞こえることが第一の原因なのではないでしょうか。遠い昔に既に経験してきたことであるだけに私には実によく判るのです。

 ここまで書くと必ず骨伝導を持ち出されそうですが、そんなことではないのです。380も386も1157も種も仕掛けもない唯の平坦な特性を持ったアンプに過ぎません。それを低域も高域も十分に延びたイアホンを通して聞くだけで安心できる音になる。ここには骨伝導など介入する余地はないのです。

 ここで[望遠ソラ/赤トンボ]を取りだして頂きましょう。手前にイアホン端子とか音量ツマミがあって、音は向かい側から取り込むようになっています。それをグルリと回して手前側に向けて頂きます。そして二人で並んで話して見て下さい。相手の顔を見ず[望遠ソラ]のマイク面に向かって話すのです。
 「自分の声が聞こえないと正常には話せない」のが難聴者の原理なのですが、自分の声がしっかり聞こえてくれると極く自然に速やかに発音や声量が正常に戻っていくのが判ります。

 私は「4000Hzが聞こえれば十分」なのではなくて、それ以上5000Hzでも6000Hzでも余分に聞こえてくれることに非常に大きな意味があるのではないかと考えています。
 ですから聴力の測定も4000Hzの上がいきなり8000Hzにジャプするのは私に言わせるといささか乱暴に思われます。4000Hzから上は特に5000/6000/7000Hzと多くのポイントをとってみることで、これまで見えていなかったものが見え始めるような気がします。
 これは医学界やメーカーにお願いしても多分無理でしょう。一度決まったスタイルを変えることは大変なことですから。我々自身の手で試してみるしかないと思ってい
ます。
 今日は周波数帯域だけを取り上げました。自然音の世界にはこの上にダイナミックレンジという大きな要素が加わっていますが、それはまた後の機会に書いてみることにしましょう。  



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