0204 磁気には方向性がある



 磁気ループをセットした会場で、しきりに首を横に捻りながら聞こうとしている人がおります。決まって耳掛け式の補聴器をかけています。それを見る度に私は「ハハア、この人のテレホンコイルは横向きについているな」と気の毒になるのです。詳しくお話ししましょう。

 磁気ループとは床の上にグルリと輪を描くように張るものと思いこんでおられる方が多いのですが、それは張るのに楽だからに過ぎません。

 一方受信用のコイルは原則として筒型のフェライトに細い線を大量に重ね巻きした物です。ループが水平に張ってあるとすれば筒型のコイルを垂直にしたとき感度は最も大きくなります。斜めにすると次第に音は小さくなり、水平にすると音は最小になります。

 磁気が十分に大きいときはこの差ははっきりしませんが、磁気が弱い場所ほど磁気には方向性があることが実感できます。 箱形の補聴器を開けてみるとテレホンコイルは寝かせた位置にセットいるのが見えます。これは胸のポケットに入れて使うときコイルが垂直位置になるようにそうしているのです。耳掛け式でも耳穴式でもコイルは垂直位置に配置してあるのが普通です。時には構造上どうしてもコイルを横向きにしないと収まりが悪い場合があるでしょう。そうした補聴器を求めると冒頭に書いたように首を捻らないとよく聞こえないことが起こります。

 これを欠陥とか設計ミスと責めるのは間違っています。建物の構造上どうしてもループを垂直に張らなくはならい場面がありますから、そのときはこちらが有利になりますね。


 実例を申しましょう。埼玉県菖蒲町の例です。この町には非常に使い勝手よく設計された会館があって、多目的ホール用として町民のお一人が磁気ループシステムを寄付されることになりました。私に任せて頂くことになって現場を拝見しました。このホールは普段は体育館として使っていますがスイッチ一つで定員300人の階段状の椅子席がせり出すようになっています。こうした作りは最近非常に多く見かけるようになりました。

 床にループを張ることができなくて壁を使うしかないのですが、都合の良いことにはお客様の安全のための手すりも一緒にせり出してくることです。この手すりに3ケ所金属のフックを仮止めし、これに必要の都度ループを吊って貰うことにしました。ものの数分で設営と撤去ができます。


 下見したときの計画では、舞台から見て左前方の50人分をカバーできれば十分と考えていました。しかし、町長さんも加わっての本番では左右いっぱい100人分に磁気が届くことが判って大変喜んで頂きました。
 ただし、欠陥が一つあります。受信用のコイルが垂直についている普遍的な補聴器ではループから遠い席では受信状態が悪くなることです。これは貸し出し用の受信機を十分用意することで対処することにしました。


 最近の補聴器は「恥ずかしい」「人目につきたくない」難聴者心理と言いましょうか、耳穴式が全体の70%を占めているそうです。困ったことにそのまた70%にコイルがついていないのです。できるだけ形の小さいものをお客が求めるのでメーカーもこれに迎合してコイル抜きのものを作ろうとします。補聴器店は磁気ループのことなんか全然知らない店員が多いので「将来のためにはコイルつきの物を求めておかれる方が良いですよ」なんてことは言いっこないのです。

  ですから折角磁気ループを用意しても受信できる人が極めて僅かだとこちらも張り合いがなくてガッカリさせられます。これにはありったけコストの安い受信専用機を用意して応えるしかありません。その受信機を自作することもこのHPの大きな目的の一つなのですが、それはこれからおいおいと。

  さて、ここで磁気の方向性について整理してみます。教室があるとしましょう。ここには相対する面が三組あります。黒板が吊ってある正面とこれに正対する背後の壁。片方は廊下側・片方はガラス窓になる左右の壁、そして天井と床です。合計して六つの面があるわけですが、このどの面にループを張っても構いません。磁気がどういう方向に走り、受信側のコイルをどう向けるかという原則を頭に入れておけばどう張ろうと自由です。

  磁気には混信という泣き所がありまして、それをどう逃げるかがエンジニアとしての腕の見せ所です。それを次回に追ってみましょう。




直線上に配置
 

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